事八日の厄神送り 2月8日に行われる松本の奇妙な行事

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こんにちは。
オチャノマ文具のちょこです。

以前浅間温泉の狂気の火祭り「松明祭り」をご紹介しましたが、松本には他にもいろいろな珍しい行事があります。

一年の中でも異彩を放つのが、2月8日の事八日(ことようか)の行事です。

松本のいくつかの地域では、地区などのごく小さい単位で、この日に厄神送りをします。
藁で作った大足半や百足、ヌカエブシに、長い数珠を回し念仏を唱える八日念仏…

毎年この日には不思議な行事が松本のどこかで行われているのです。

今回はそんな重要無形文化財にも指定された長野県松本市の事八日について紹介します。

オチャノマ文具店ちょこ145cm

筆者:ちょこ
大阪から長野県松本市に移住して6年が経過。5年をシェアハウスを過ごした後現地で嫁入り。
オチャノマ文具店ブログを営みながら訪問介護ヘルパーとして働く介護福祉士でもある。

長野県松本市の事八日貧乏神送り風邪の神送り
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事八日とは

事八日(ことようか)とは2月8日、12月8日のことで、全国的に行事が行われる日です。

農作業などが始まる2月8日を事始め、収穫が終わった後の12月8日を事納めとする地域もあれば、東京などでは正月行事の始めとして12月8日を事始め、2月8日を事納めとする場合もあります。また、西日本では片方のみに事八日の行事を行うことが多いなど地域によって違いがあります。


松本では2月8日に事八日の行事が行われます。
現在では当日ではなく、8日に近い日曜日などに行事が行われることが多いようです。
「風邪の神送り」「貧乏神送り」「お八日念仏」などいろいろな呼ばれ方をします。

この事八日の行事のいくつかは平成7年に松本市の重要無形文化財に指定されています。

長野県松本市の事八日(ことようか)

ヌカエブシ

2月8日の早朝に松本ではヌカエブシということをする地域が多くあります。
糠やこしょう、もみ殻、唐辛子、さいかちの実、ネギなど燃やすと強く臭いの出るものを戸口で燃やし、厄神が入って来ないようにします。毛髪を燃やす場合も。

事八日の日には餅をついて、作ったあんこやきなこの餅を「ようかもち」「ことのもち」と呼びます。
餅は地域によって、道祖神に塗り付けたり、道祖神前で藁苞に包んだ餅を交換したりします。

餅を交換するのは、他人の厄をもらって自分の厄も分けるという「厄分け」の風習だといわれています。

後で紹介する入山辺の厩所では、かつては小さい藁馬に餅をのせて道祖神まで運んだり、餅を交換するワラウマヒキをおこなったそうですが今はなくなっています。

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入山辺厩所 貧乏神送り

松本市入山辺厩所(いりやまべまやどころ)では、藁で作った大きな馬に「ジジ」「ババ」と呼ばれる厄神に見立てた2体の藁人形をのせます。なぜか馬の足にはわらじを履かせます。

地区の住人が藁馬の周りを囲んで座り、大きな数珠をみんなでぐるぐるまわしながら鉦(かね)の音に合わせて「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えます。
その後、みんなで藁馬を村の境まで担いでいって焼き払うことで厄神を送り出す、というのがもともと。現在では村の境ではなく、薄川の川端で燃やすように変わったようです。
藁馬を運ぶ間はカネを鳴らしながら「貧乏神追い出せ、貧乏神追い出せ」と囃し立てます。

上手町(わでまち)、奈良尾(ならお)でも同様に藁馬や男女の藁人形を用いて行事が行われますが上手町では金剛杖と呼ばれる3本の木の棒が使われるなど地域によって少しづつ作法が異なります。
貧乏神送り、風邪の神送りと呼ばれます。

入山辺舟付 百足ひき

松本市入山辺舟付(いりやまべふなつけ)では、5mほどの大きさの藁で作った百足を子供たちが地区内を引き回します。藁百足の足には足半(あしなか)と草履を片方ずつ履かせて、これもやはり厄神に見立てます。

各戸口のヌカエブシを百足の尻尾で払いながら引き回し、薄川に近いところで燃やします。これもかつては村境で燃やしていたようです。この地区でも大人たちが木魚に合わせて念仏を唱えて、大数珠を回します。
※足半(あしなか)とは長さの短い藁草履のこと。

入山辺中村 風邪の神送り

松本市入山辺中村(いりやまべなかむら)では、藁の大きな百足を作るところは舟付と同じですが、百足の上にその年の上級生が乗って、それを残りの子供と大人で引きます。地区の境まで百足を引いていき、燃やし、厄神がついてこないように振り返らずに家まで帰ります。

この行事の間に粕汁を飲むことから「粕念仏」と呼ぶ場合もあるそうです。

今井下新田

松本市今井の下新田では、50cmほどの大きなわらじを5つ作り、念仏の後に辻や境などの5か所にかけておくということがされます。念仏の際は中央に栓を抜いた一升瓶に杉の葉をさしたものとわらじを置いて、やはり大きな数珠をみんなでまわします。

両島 

松本市両島(りょうしま)では、1m以上の大きな足半を1足作ります。念仏と数珠回しをした後に北と南の境に片方づつかけて一年中そのままにしておきます。古い足半は下に落としてそのままにします。

里山辺追倉 お八日の綱引き

松本市里山辺追倉(さとやまべおっくら)では、少し毛色が違い、藁で龍を作ります。
男性が藁で龍を作っている間に女性が精進料理を作り、できた龍を座敷に持ち込みみんなで食事をとります。その後、なんと龍を数珠代わりにして丸くなって座り念仏を唱えます。

そのあとはさらに不思議なことに綱引きをします。
女性が勝と五穀豊穣、無病息災が約束されるとのことで毎年女性が勝つんだとか。

最後に龍を地区の境の道祖神に巻き付けてお参りをします。

松本以外の事八日行事

一つ目妖怪

関東地方を中心に、2月8日の夜には一つ目の妖怪がやってくるといわれる地域があります。
妖怪の名を、メヒトツ小僧、ダイマナグ、マナグセンリョウ、メカリ婆さん、ミカワリ婆さん、などと呼びます。

このような地域では目の数の多い目籠やザルなどを家の戸口の高いところに吊るし、妖怪が入って来ないようにします。

一つ目妖怪は履物に判を押していき、押されると翌年悪い病気にかかるといわれていることから、この日は履物を外に出しておかないようにするなどの風習もあります。

飯田市の事の神送り

長野県内でも飯田市では事八日の行事を「事の神送り」「風の神送り」、その数日前に「事念仏」「大将荒神(たいしょうこうじん)」と呼ばれる行事が行われます。

事念仏・大将荒神では子供たちが鉦と太鼓をたたきながら念仏を唱え、地区内の家や神社を周りお布施などをもらいます。

事八日の行事としては藁人形のご神体が安置された藁神輿や笹竹を地区の境まで運びます。特徴的なのは境まで行くと隣の地区でそれを引き継ぎまた次の境まで運ぶというところ。

最後は境の谷に投げ捨てたり、歌を書いた旗を掲げて運んだり、途中で鉄砲を鳴らすなど松本とは違った部分が多く見られますが、厄神を送るという意味は同じのようです。

針供養

2月8日は同時に針供養が行われる地域が多くあります。
針供養は、縫い針などを柔らかい豆腐やこんにゃくにさして神社に納める行事です。
最後くらいは柔らかいところにさして休んでもらう、という意味もあるとのことですが、これは江戸後期から定着してきた行事だということです。

京都など関西地方では12月8日に行うところもあるそうです。

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参考文献・資料

事八日はごく小さい単位での行事なので実際に見せてもらうのは難しく、今回は新聞記事や本などの資料をもとに記事をかかせていただきました。
以下に参考文献を載せておきます。

「知っておきたい日本の年中行事事典」吉川弘文館 著:福田アジオ、菊池健策、山崎祐子、常光徹、福原敏男
・「「写真記録」信州に生きる(下)祭りと伝統行事編」郷土出版社 長野県民俗の会(編)
・「松本市史」 第3巻 民俗編
・市民タイムス2017/2/5
・市民タイムス2022/2/9
入山辺するじゃん新聞2016/1/12
松本市HP
飯田市HP
公益財団法人 八十二文化財団HP

その他の松本の文化

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